「もう、終わりなのか?」
40代半ば。腰の怪我。 ジャスティン・ローズのキャリアは、誰の目にも「黄昏時」に映っていたはずだ。
そこへ舞い込んだ、LIVゴルフからの巨額オファー。 移籍すれば、数百億円が手に入る。予選落ちの恐怖もない。身体をいたわりながら、悠々自適な「上がり」の人生が待っている。
同世代のポールターも、ウェストウッドも、そちら側へ行った。 誰も彼らを責めない。それが「賢いビジネス」だからだ。
だが、ローズは断った。 なぜか?
彼には、まだ「やり残したこと」があったからだ。
「3度目の悪夢」という燃料
時計の針を戻そう。昨年の2025年マスターズ。 世界中がローリー・マキロイのキャリアグランドスラム達成に沸く中、その影で涙を飲んだ男がいた。 ジャスティン・ローズだ。
2015年はスピースに、2017年はガルシアに、そして2025年はマキロイに。 「マスターズ2位」という残酷な称号を受け取るのは、これでもう3度目だった。
マキロイとは友人であり、同じエージェントに所属する仲間だ。 だが、目の前で友がグリーンジャケットに袖を通す姿を見せつけられた屈辱は、彼の中で消えない炎となった。
ここでLIVに行けば、「金持ちの引退者」になれる。 だがローズは、その安楽な道を拒絶した。彼には、既にその先へ進むための「設計図」があったからだ。
敗北すらも「データ」に変える強さ
彼は以前から、ある男とタッグを組み、スイングの再構築に着手していた。
マーク・ブラックボーン。 TPIやSportsbox AIを駆使し、バイオメカニクスでスイングを丸裸にする「科学の鬼」だ。
普通、メジャーで優勝を逃せば、選手はパニックになる。 「何かが間違っているんじゃないか?」と疑心暗鬼になり、コーチを解雇したり、スイングをまた一から変えようとする。 それが人間の弱さだ。
だが、ローズは違った。 昨年のマスターズでマキロイに敗れた直後も、彼はブラックボーンとの「プロセス」を信じ抜いた。
彼はこう言ったという。
「自分のゴルフのオーナーシップ(所有権)を持つことにした。他人の意見ではなく、ファクト(事実)に基づいてね」
感情に流されて方針を変えることは、オーナーシップの放棄だ。 彼は敗北の悔しさすらも「一つのデータ」として処理し、ブラックボーンと共に0.1ミリ単位の修正を黙々と続けた。
そこに「迷い」が入る余地はない。あるのは物理法則と、冷徹な数字への信頼だけだ。
そして起きた、トーリーパインズの奇跡
答え合わせは、先週の「ファーマーズ・インシュランス・オープン」で完了した。
難攻不落のトーリーパインズ。 45歳のローズは、そこで何をしたか?
7打差の完全優勝。 トータルスコア「265」は、あのタイガー・ウッズが1999年に打ち立てた大会記録を塗り替える歴史的快挙だった。
「Sorry, T-Dub(悪いね、タイガー)」 優勝インタビューでそう笑ったローズの瞳に、迷いはなかった。
LIVに行った選手たちがエキシビションで余生を過ごす中、ローズはPGAツアーの最もタフなコースで、全盛期のタイガーを超えるパフォーマンスを見せつけたのだ。
「いばらの道」こそが、唯一の近道
あなたはまだ、感覚だけの練習を続けるのか? それとも、ローズのように「真実(データ)」と向き合う覚悟はあるか?
ゴルフは科学だ。 そして、夢は売り物ではない。
今年4月のオーガスタ。 「4度目の正直」を狙う、データという武器を携えた45歳の逆襲が、今から楽しみでならない。