あなたのスイングに刺さっている「草」は何ですか?——トレンドが広まる本当の理由

こんにちは、中上級者向け飛距離アップ専門コーチ ぶっ飛び力学研究所の山崎壱鉱です。
最近インスタで流れてくるアレ、見ましたか。サルが耳に草の茎を挿している。しかもご丁寧に、お尻にも挿している個体がいる。
耳に草を挿すサルの話
あれ、ふざけて撮った動画じゃありません。ザンビアの保護区にいるチンパンジーの群れで、実際に研究者が記録している行動です。
最初は一頭のメスが耳に草を挿し始めた。それだけ。虫が入るわけでも、かゆいわけでも、エサが取れるわけでもない。まったく意味がない。
なのに、群れの仲間が真似をした。次の世代も真似をした。その個体が死んだあとも、その群れでは「耳に草」が続いた。そして別のグループでは、そこにアレンジが加わって「お尻にも挿す」バージョンが生まれた。
生物学ではこれを文化伝播と呼びます。覚えておいてほしいポイントはひとつだけ。
広まった理由は「効果があったから」ではない。
「群れの中で目立つやつがやっていたから」です。
ゴルフのスイングは、まったく同じ仕組みで広まる
ここからが本題です。
スイングのトレンドは、バイオメカニクスの研究で決まっていません。その国で、その時期に、勝った選手のスイングで決まります。
アメリカでタイガー・ウッズが席巻した時代、世界中のジュニアが下半身を高速で回し始めました。ローリー・マキロイやブライソン・デシャンボーがぶっ飛ばし始めれば、レッスン記事のテーマは一斉に「スピード」に切り替わる。韓国女子がLPGAを支配すれば、コンパクトでミスの出ないトップが正解ということになる。
理屈が先ではありません。結果を出した人間が先で、理屈は後から貼られる。
耳の草と、構造はまったく同じです。
日本の群れに刺さった草——宮里藍から松山英樹へ
日本の場合を追いかけてみましょう。
まず宮里藍ちゃん。日本中が彼女のスイングを見ました。上体が暴れない、リズムがきれいで、無理に振りにいかない。「あれが日本人の理想の振り方だ」という空気が一気にできあがった。
そこに松山英樹。トップでの「間(ま)」。あの独特の一瞬止まる動き。日本人選手として世界のトップに立った人間がやっているんだから、当然真似されます。練習場に行けば、トップで止まっているアマチュアが必ず何人かいる。
この二つが重なった結果、日本のアマチュアのスイングには共通の性質が根づきました。
テンポが、遅い。
「ゆっくり上げて」「トップで一回ためて」「上からゆっくり下ろす」。レッスンでも、ゴルフ番組でも、練習場の会話でも、これが正義として流通している。
でも思い出してください。それ、本当にあなたに効果があるから広まったんですか?それとも、勝った人がやっていたから広まったんですか?
ここが決定的に厄介なところ
松山英樹の「間」は、あの筋力・あの柔軟性・あの切り返しの加速度を持った人間が使うから機能します。彼にとってあの間は「止まっている」のではなく、次に爆発するための助走です。
ところが、その外形だけを一般のアマチュアがコピーするとどうなるか。
- トップで本当に止まる(力の蓄積ではなく、ただの停止)
- 切り返しで生まれるはずの反動が消える
- 消えた反動を補うために、腕で「よいしょ」と下ろす
- ヘッドスピードが落ちる、当たりも薄くなる
- 飛ばないので、さらに丁寧に、さらにゆっくり振る ← ここでループが完成する
つまり、耳に草を挿しているのと同じ状態です。本人は真剣。群れの中では自然。でも、飛距離という結果に対しては、何もしていない。
ぶっ飛び力学の立場から言えば、飛距離を決めるのは「丁寧さ」ではありません。切り返しでどれだけ地面を使えているか。そこで発生した力を、どれだけ逃がさずヘッドまで届けられているか。それだけです。テンポの遅さそのものが悪なのではなく、遅さがその二つを殺しているケースが、日本にはあまりに多い。
自分に刺さった草を抜くための3つのチェック
トレンドを全部捨てろという話ではありません。自分に効いているかどうかを確かめてほしい、という話です。今日、練習場でできます。
- 「なぜそうしているか」を言えるか——トップで間を作っている人は、なぜ作っているのか説明してみてください。「そう習ったから」「プロがやっているから」しか出てこないなら、それは草です。
- いつも通り vs テンポ2割上げ、10球ずつ——思い切ってテンポだけ速くして打ってみる。飛距離が落ちるなら、その遅さはあなたにとって機能しています。飛距離が伸びたなら、遅さはただの飾りだった。
- 数字で確かめる——体感は群れの空気に汚染されます。ヘッドスピード計でも、スマホのスロー動画でもいい。判定は必ず外部の数字にやらせてください。
まとめ
ザンビアのチンパンジーは、今日も耳に草を挿しています。害はありません。ただ、意味もありません。
ゴルフが厄介なのは、刺さった草に、私たちが「基本」という名前をつけてしまうところです。基本と呼ばれた瞬間、それは疑われなくなる。
あなたが今やっているその動き。自分の体が求めたものですか。それとも、誰かがテレビで勝っていたから、いつのまにか耳に挿していたものですか。
抜いてみると、意外と飛びますよ。
