ネズミに懸賞金をかけたら、ネズミが増えた

こんにちは、中上級者向け飛距離アップ専門コーチ
ぶっ飛び力学研究所の山崎壱鉱です。
1902年、フランス統治下のハノイでの話です。
尻尾のないネズミ
町にネズミが増えすぎて、衛生上の深刻な問題になっていました。そこで当局は、わかりやすい対策を打ちます。
ネズミを駆除したら、報奨金を払う。
ただ、死骸を持ってこられても処理に困ります。そこで「尻尾を1本持ってくれば、いくら」という方式にしました。合理的に見えます。尻尾の数だけネズミが減っているはずですから。
しばらくして、役人は妙なことに気づきます。
町に、尻尾のないネズミが歩いている。
捕まえた人々は、尻尾だけを切り取って、ネズミを生きたまま下水に戻していたのです。生きていれば、また増える。また尻尾が取れる。
さらに調べると、郊外にネズミの養殖場までできていました。
報奨金は廃止されました。ネズミを減らす制度が、ネズミを増やしていたからです。
誰も悪人ではありません。報酬が尻尾についていたから、みんなが尻尾を最大化しただけです。
この種の現象は、のちにこう要約されるようになりました。
指標が目標になった瞬間、それは良い指標ではなくなる。
練習場で、全員が下を向いている
ここからが本題です。
いまの練習場の光景を思い浮かべてください。
球を打つ。打った瞬間に、下を向く。計測器の画面を見る。数字を確認して、また次の球を打つ。
ボールがどこに飛んだか、見ていません。
尻尾を数えているのと、同じことが起きていないでしょうか。
トラックマンを持ち込んだ本人が言っている
ショーン・フォーリー(Sean Foley)というコーチがいます。2000年代後半、PGAツアーにいち早くトラックマンを持ち込んだ人物です。タイガー・ウッズ、ジャスティン・ローズ、リディア・コらを指導してきました。
数値の意味を理解するために、デンマークのエンジニアに毎日電話していたという男です。ゴルフのデータ革命を起こした張本人と言っていい。
その彼が、いま「私たちは計測しすぎている」と言っています。
「打った直後にコンピュータを見て、『自分は良い人間か、悪い人間か』を機械に承認してもらおうとしている。ボールがどこに落ちたかすら見ていないんだ」
彼の指示はシンプルです。
まずフィニッシュをホールドしろ。そしてボールが着弾するまで、自分の目で見ろ。
空を飛んでいくボールを見ることで、脳には膨大な量のフィードバックが入ってきます。弾道の高さ、曲がり、落下の仕方、キャリーの感覚。それを見ずに画面に目を落とした瞬間、その情報は全部捨てられます。
フォーリーはこうも言っています。
「ホールアウトした後に、人々が聞くのは『今日、何打だった?』だけだ。『ダウンスイングのP5でクラブがどこにあったか』『スピン量がいくつだったか』なんて、誰も聞いちゃいないんだよ」
最近はウェアラブル端末で睡眠や体調を測る選手も増えました。ところが数値が悪いというだけで「今日は調子が悪い」と思い込んでしまう。測らなければ、気づきもしなかった不調です。
彼の主張は、こうまとめられます。完璧に最適化された状態を作ることが目的ではない。不完全な状態で、どうスコアをまとめるかがゴルフだ。
私は計測を仕事にしています。だから、はっきり分けます
ここは誤解してほしくないので、正面から書きます。
私は3Dで計測して指導しています。計測をやめろという話では、まったくありません。
ただ、まったく性質の違う2つの行為が、同じ「測る」という言葉で呼ばれています。
① 原因を特定するための計測
伝達のどこが崩れているのかを、1回、正確に突き止める作業です。年に数回で足ります。一度特定できれば、その後の数ヶ月はその1点に取り組めばいい。
② 1球ごとに採点してもらう行為
これは計測ではありません。承認を求めているだけです。そして毎球やると、計測器はあなたを1球ごとに判定する装置になります。
②をやり続けると、何が起きるか。
数字が目標になります。そして人間は、目標にされた数字を必ず最大化します。ハノイの尻尾とまったく同じです。
ヘッドスピードの数字を上げたいだけなら、当たらなくても全力で振れば出ます。入射角の数字を整えたいだけなら、飛ばなくても整えられます。どの数字も、単独なら簡単に改善できる。代償を別の場所に押し付ければいいだけですから。
でも、球は1つです。
このブログで繰り返し書いてきたとおり、飛距離を決めるのは、地面で作った力を逃がさずヘッドまで届けられているかです。これは、1つの数字で表せません。順番の問題だからです。
そして順番は、画面を見ながら直せるものではありません。原因を1つ特定して、あとは体に反応させる。それ以外に方法がない。
測ることと、見続けることは、別です。
今日からやる3つ
① 10球だけ、画面を見ない
打ったらフィニッシュをホールドして、ボールが落ちるまで目で追ってください。画面は見ない。10球やると、自分がいかに弾道を見ていなかったかが分かります。あなたの目は、計測器より多くの情報を拾っています。
② 「今日、何打だった?」から逆算する
ラウンドが終わって聞かれるのは、その一言だけです。いま練習している内容は、その数字につながっていますか。つながらない数字を1つ、今日から捨ててください。
③ 計測は「原因を1つ特定する」ときだけ使う
毎回測る必要はありません。崩れたとき、進まなくなったときに1回。そして特定できたら、しばらく測らずに取り組む。これがいちばん伸びます。
まとめ
ハノイの役人は、ネズミを減らしたかった。尻尾の数は、そのための目安でした。
ところが尻尾に報酬がついた瞬間、目安が目的に変わりました。そして人々は、目的を完璧に達成しました。ネズミを増やしながら。
ゴルフの数字も、本来は目安です。コースでスコアを出すための。
でも打った瞬間に画面を見る習慣がついたとき、その数字は目安ではなくなります。1球ごとの採点になります。そして採点されている限り、人は点の取りやすいほうへ振るようになる。
次の1球、画面を見ずに、ボールが落ちるまで見届けてみてください。
あなたはいま、何を増やそうとしていますか。
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