© ぶっ飛び力学 / 山崎壱鉱
HOME / ブログ / ノウハウ
ノウハウ

信号を撤去したら、事故が減った

信号を撤去したら、事故が減った

こんにちは、中上級者向け飛距離アップ専門コーチ
ぶっ飛び力学研究所の山崎壱鉱です。

オランダに、ドラフテンという町があります。

標識のない交差点

その町の中心にある交差点で、ある実験が行われました。交通量は1日2万台を超える、決して小さくない交差点です。

やったことは、こうです。

信号機を撤去した。標識を撤去した。白線も、横断歩道も消した。

常識で考えれば、事故が増えるはずです。ところが結果は逆でした。事故は減り、渋滞も減りました。

仕掛けたのは、ハンス・モンデルマンという交通技術者です。彼の考えはこうでした。

標識と信号は、ドライバーに「いま何をすべきか」を指示します。指示されている間、ドライバーは周囲を見ていません。信号が青なら進む。それだけです。横断歩道に人がいるかどうかは、信号が教えてくれないのに。

ところが指示を全部取り払うと、ドライバーは自分で見るしかなくなります。相手の目を見る。速度を落とす。状況を読む。結果として、交差点全体が勝手にうまく回りはじめました。

モンデルマンの言葉が残っています。

「人を馬鹿のように扱えば、馬鹿のように振る舞う」

そして、この話にはもうひとつ重要な続きがあります。あとで戻ってきます。

あなたの練習場は、標識だらけ

ここからが本題です。

練習場で飛び交っている言葉を思い出してください。

「右腕をもっとこう」
「手首の角度を保って」
「左肩を深く入れて」
「ヘッドを残す」

全部、体の部位への指示です。信号と標識とまったく同じ構造をしています。

そして同じことが起きます。指示されている間、あなたは自分の体を見ていません。右腕の角度を作ることに集中している間、残りの全部は放置されています。

指示が多いほど、体は考えなくなる。

器具マニアをやめた飛ばし屋

PGAツアーのジェイク・ナップ(Jake Knapp)は、かつてSNSで「練習器具マニア」として知られていました。右足の下にウェッジを踏み、ベルトにスティックを通し、脇にグローブを挟む。体を特定の形に固定する道具です。

いまの彼は、それをやめました。代わりに使っているのは、こういうものです。

始動でクラブが外に上がる癖を直したいとき、彼はボールの近くにペットボトルやスティックを置きます。そして、こう言います。

「そこにスティックがある。クラブが外に上がったら当たる。だから『ただのアスリートになって、それに当たらないように振る』。すごくシンプルだろ?」

形を作っていません。タスクを与えているだけです。

当たらないように振る——それだけを課されたとき、体は自分で最適な軌道を探します。誰も「右腕をこう動かせ」とは言っていないのに、結果として軌道が変わる。

標識を撤去した交差点と、まったく同じことが起きています。

彼はもっと極端なこともしています。薄い使い捨ての袋を右手のひらと左親指の間に挟み、「右手のひらで左親指を少し強く押す」。たったそれだけの圧の感覚で、テークバック最初の1.2メートルの軌道が劇的に変わったそうです。

部位への指示はゼロ。感覚の入口をひとつ変えただけです。

なぜ、部位への指示が効かないのか

ぶっ飛び力学として、理由をはっきり言います。

運動連鎖は、同時に起きるからです。

地面を踏む。体幹が回る。腕が走る。ヘッドが最速になる。これは順番に起きますが、全体で0.2秒ほどの出来事です。その間に、あなたが意識でコントロールできる項目はいくつありますか。

ひとつです。せいぜいひとつ。

そして、ひとつの部位に意識を置くと何が起きるか。その部位だけが、早く動きます。注意を向けた場所は、優先的に、強く、先に動く。順番を守るべき列に、ひとつだけ割り込みが発生します。

つまり——部位に指示を出すという行為そのものが、運動連鎖を壊す原因になっている。

伝達の順番は、作るものではありません。邪魔しなければ、出てくるものです。地面を使える体勢で、正しいタスクを与えれば、順番は勝手に揃います。

だからナップは、形を指定するのをやめて、当たらないように振れとだけ言うのです。

コースに持っていくときに、全員がつまずく

ここで、多くの人が直面する壁があります。

練習場ではできるのに、コースに出るとできない。

ナップのやり方は明快です。練習場では極端すぎるほど大げさな感覚で何時間も打ち込む。そしてコースでは、スイングのことを一切考えない。大げさにやった感覚は、本番ではほんの数センチのニュートラルな変化として、無意識に出てくる。それに任せる。

問題は、その数センチが猛烈に気持ち悪いことです。

新しい動きは、必ず違和感を伴います。そして本番のプレッシャーの中で、人は何をするか。怖くなって、昔の手先の感覚で球を合わせにいきます。

ここが決定的です。合わせにいくと、ナイスショットが出てしまう。

出てしまうから、たちが悪い。「やっぱり前のほうがいい」という誤った学習が成立し、新しい動きは永久に定着しません。

ナップの結論は、こうです。

最も不快だと感じるその動きを、コースで100%信頼してやり切ること。

「たかが1打だ。ミスしても死ぬわけじゃない」と割り切って、振り抜く。それが1球でも成功したとき、脳は初めてその動きを「本番で使えるもの」として登録します。

彼自身、感覚が完全に馴染むまで3〜4ヶ月かかったと言っています。ツアープロが、です。

住民は「危険になった」と感じていた

さて、ドラフテンの交差点の話に戻ります。

信号を撤去したあと、調査でこんなことが分かりました。

住民は、前より危険になったと感じていた。

実際には事故は減っていました。それでも、体感は「危なくなった」だったのです。

当たり前です。信号という保証がなくなり、自分で判断しなければならなくなったのですから。安全になった理由そのものが、不安の原因でした。

ここから持ち帰ってほしいのは、この一点です。

不快感は、間違っている証拠ではない。

むしろ、正しく変わりはじめた証拠であることのほうが多い。信号を外した直後は、必ず不安になります。

今日からやる3つ

① 部位への指示を、タスクに翻訳する

「クラブが外に上がる」なら、外に上がったら当たる場所に物を置く。「右腕をこう」ではなく「これに当てない」に変える。指示をタスクに変換できたものだけが、体に入ります。

② 意識する項目を、1つに減らす

いま意識している項目を全部書き出して、1つだけ残して捨ててください。2つ以上あるなら、それは多すぎます。0.2秒の中で、人は2つを管理できません。

③ 違和感のある球を、コースで1球だけ打ち切る

全ホールでなくていい。1ホールだけ、1球だけ、気持ち悪いほうを100%で振り抜いてください。合わせにいかない。結果は問いません。その1球が、定着の起点になります。

まとめ

ドラフテンの交差点から消えたのは、信号と標識でした。増えたのは、ドライバー自身が見て、考えて、判断する時間です。

あなたの練習場には、まだ信号が立っていませんか。「右腕をこう」「手首をこう」と、0.2秒の出来事に向かって、次々と指示が出されていませんか。

体は、思っているより賢いです。正しいタスクさえ与えれば、順番は勝手に揃います。邪魔をしているのは、たいてい指示のほうです。

そして、信号を外した直後は必ず不安になります。その不安は、失敗の予兆ではありません。

あなたが今「気持ち悪いからやめた」その動き。

本当に間違っていたのでしょうか。

\ 無料・メールアドレスだけ /

飛距離アップのヒントを、あなたのメールへ。

飛距離が伸びない原因と、練習の考え方。計測データと指導の現場からお届けします。

無料でメルマガを受け取るいつでも配信解除できます無料の「新・飛距離ポテンシャル診断」はこちら →
山崎壱鉱
山崎 壱鉱飛距離アップ専門コーチ
「ぶっ飛び力学」主宰。最先端のゴルフバイオメカニクスに基づき、科学的に飛距離を伸ばす方法を指導。平均飛距離+30ヤード。ドラコン日本チャンピオンや全米女子オープン出場プロをはじめ、多数のアマチュアを指導。キャリー230y→300y超。
プロフィールを詳しく見る →
← ブログ一覧へ戻る