あなたがスロー動画で見たその動き、起きていません

こんにちは、中上級者向け飛距離アップ専門コーチ
ぶっ飛び力学研究所の山崎壱鉱です。
古い西部劇を見ていると、妙なことに気づきます。
馬車の車輪が、逆に回る
馬車が前に進んでいるのに、車輪が逆に回っている。速度によっては、止まって見えることもある。
もちろん、車輪は逆回転していません。前に進んでいるのだから、前に回っています。
原因はカメラです。映画のフィルムは、1秒間に24枚の静止画しか記録していません。車輪の回転速度と、この24枚というタイミングが噛み合うと、1枚前のコマより少しだけ手前に戻った位置でスポークが写る。それが連続すると、人間の目には逆回転として見えます。
車輪は正しく回っていた。カメラが、起きていないことを記録しただけです。
もっと身近な例もあります。スマホで扇風機や飛行機のプロペラを撮ると、羽根がグニャリと曲がって写ることがあります。スマホのセンサーは画面を一度に読み取らず、上の行から下の行へ順番に読んでいるため、読んでいる途中に被写体が動くと、その分だけ形がねじれて記録されるのです。
羽根は曲がっていません。カメラがそう書いただけです。
ゴルフでも、まったく同じことが起きている
ここからが本題です。
スマホでスイングを撮ったとき、シャフトが不自然にしなって写った経験はありませんか。あれも同じ現象です。実際のシャフトは、あんな形にはなっていません。
多くの人は「道具の問題だ」で済ませます。でも、同じことが動きの解釈でも起きているとしたら、どうでしょうか。
カメラに正しく写っているのに、何が起きているのかを、全員が間違えて読んでいるという事態です。
実際に起きています。
全員が見間違えている切り返し
PGAツアーに、ジェイク・ナップ(Jake Knapp)という選手がいます。ツアー屈指の飛ばし屋でありながら、時間が止まったようなゆったりしたリズムで振る、あのスイングです。
彼を正面から撮ると、トップから切り返しにかけて、手元が体の近くにグッと引きつけられるように見えます。左腕が少したわみ、グリップが狭くなっていく。
この映像を見た人は、ほぼ全員こう結論します。
「トップから手元を引き下ろしているんだな」
本人は、これを明確に否定しています。
「みんな僕がクラブを身体の近くに引っ張り込んでいると思うみたいだけど、実際は違う。手元はその場に置いたまま、胸を猛烈に回しているだけなんだ」
彼の感覚は、ドライバーでは「胸を、左の力こぶにぶつけにいく」。それだけです。
手元を引いていない。胸が回っただけ。
胸が回れば、相対的に手元は体に近づきます。カメラにはそう写る。でも手元は、何もしていない。
車輪と同じです。映像は正しい。読み方が間違っている。
真似すると、正反対の動きになる
ここが怖いところです。
見た目のとおりに「手元を下に引く」をやると、何が起きるか。
ナップの体で起きている順番は、こうです。
- 下半身を固め、胸を回して強い捻転差を作る
- 切り返しで、手元は置いたまま胸をターゲット方向へ高速で回す
- 胸が回りきった瞬間、背後に残っていた腕とクラブがスリングショットのように解放される
腕は、最後に出てくる。胸が先に行って、置き去りにされた腕が、あとから弾かれて追いつく。だからヘッドが走ります。
ここで手元を自分から引き下ろすと、どうなるか。腕が先に出ます。胸より先に腕が動いた瞬間、スリングショットは成立しません。引き絞る前にゴムを手で前に持っていくようなものです。
ぶっ飛び力学の言葉で言えば、伝達の順番を自分で逆にしている。
地面を踏んで作った力は、下から順に渡さなければヘッドに届きません。手元を引く動きは、その列に腕を割り込ませる行為です。見た目を正確に真似したのに、体の中では正反対のことが起きる。
では、どうやって手先を封じるか
とはいえ、「手先を使うな」と言われて使わずに振れる人は、ほとんどいません。意識でどうにかなる話ではないからです。
ナップの解決策が、非常に実際的です。
彼のドライバーは、バランスがD8です。
市販のドライバーは、たいていD0からD3あたり。D8は、ほぼ別物と言っていい重さです。しかも大学時代からずっとこれを使っています。
なぜか。彼の説明はこうです。
軽いボールを投げるときは、手先の力だけでどうにでも投げられてしまうので、体の使い方は身につかない。ところが重いメディシンボールやハンマーを振るときは、手先ではどうにもならない。だから体が勝手に、地面をどう踏むか、足から順にどう力を渡すかを学習しはじめる。
クラブが軽すぎると、彼ほどのパワーがあれば手先が暴れて、左へのミスが出る。だからあえて重くして、小手先の操作を物理的に封じているのです。
意識ではなく、道具で封じる。手先を使えない状況に自分を置けば、残る選択肢は地面と体幹しかありません。
これは、このブログで繰り返し書いてきた話と同じ場所に着地します。飛距離を決めるのは、地面をどう使い、その力をどう逃がさず届けるか。ナップは、それを根性ではなくクラブの重さで強制しているだけです。
今日からやる3つ
① 自分のスイングを「名詞」で説明してみる
「手元を引く」「体を開く」「頭を残す」——あなたがスイング中にやっている動作を、ひとつ言葉にしてください。そのうえで問います。それは本当にあなたが「している」ことですか。それとも、他の動きの結果として「そう見える」だけですか。
② 腕と胸の順番を見る
スロー動画で、切り返しから胸と腕のどちらが先に動き出すかだけを見てください。他は全部無視して結構です。腕が先に出ていたら、スリングショットは成立していません。
③ 重いもので振ってみる
手先が使えない状況を作ります。重いクラブでも、素振り用の重量棒でも、何ならクラブ2本握ってでもいい。手先で操作できない重さで振ったときの体の使い方が、あなたの本来の運動連鎖です。軽いクラブに戻したとき、その感覚が残っているかを確かめてください。
まとめ
西部劇の車輪は、逆に回っていませんでした。スマホのプロペラも、曲がっていませんでした。
映像は正しい。読み方が間違っていただけです。
ジェイク・ナップは手元を引いていません。胸を回しただけです。それなのに、彼の動画を見た世界中のゴルファーが、彼がやっていない動作を練習しています。
いちばん怖いのは、ここです。嘘の情報に騙されたのではありません。本物の映像を、正しく見て、間違えたのです。
あなたが今いちばん熱心に取り組んでいるその動き。
それは、誰かが「している」ことですか。それとも、誰かが「そう見える」ことですか。
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