あなたのスイングに刺さっている「草」は何ですか?——トレンドが広まる本当の理由
こんにちは、ぶっ飛び力学の山崎壱鉱(いっこう)です。
最近インスタで流れてくるアレ、見ましたか。サルが耳に草の茎を 挿している。しかもご丁寧に、お尻にも挿している個体がいる。
▼耳に草を挿すサルの話
あれ、ふざけて撮った動画じゃありません。 ザンビアの保護区にいるチンパンジーの群れで、実際に研究者が 記録している行動です。
最初は一頭のメスが耳に草を挿し始めた。それだけ。虫が 入るわけでも、かゆいわけでも、エサが取れるわけでもない。 まったく意味がない。
なのに、群れの仲間が真似をした。次の世代も真似をした。 その個体が死んだあとも、その群れでは「耳に草」が続いた。そして 別のグループでは、そこにアレンジが 加わって「お尻にも挿す」バージョンが生まれた。
生物学ではこれを文化伝播と呼びます。 覚えておいてほしいポイントはひとつだけ。
広まった理由は「効果があったから」ではない。 「群れの中で目立つやつがやっていたから」です。
▼ゴルフのスイングは、まったく同じ仕組みで広まる
ここからが本題です。
スイングのトレンドは、 バイオメカニクスの研究で決まっていません。その国で、 その時期に、勝った選手のスイングで決まります。
アメリカでタイガー・ウッズが席巻した時代、世界中のジュニアが 下半身を高速で回し始めました。 ローリー・マキロイやブライソン・デシャンボーが ぶっ飛ばし始めれば、レッスン記事のテーマは 一斉に「スピード」に切り替わる。韓国女子がLPGAを支配すれば、 コンパクトでミスの出ないトップが正解ということになる。
理屈が先ではありません。結果を出した人間が先で、理屈は後から 貼られる。
耳の草と、構造はまったく同じです。
▼日本の群れに刺さった草——宮里藍から松山英樹へ
日本の場合を追いかけてみましょう。
まず宮里藍ちゃん。日本中が彼女のスイングを見ました。上体が 暴れない、リズムがきれいで、無理に振りにいかない。 「あれが日本人の理想の振り方だ」という空気が一気にできあがった。
そこに松山英樹。トップでの「間(ま)」。 あの独特の一瞬止まる動き。日本人選手として 世界のトップに立った人間がやっているんだから、 当然真似されます。練習場に行けば、 トップで止まっているアマチュアが必ず何人かいる。
この二つが重なった結果、日本のアマチュアのスイングには 共通の性質が根づきました。
テンポが、遅い。
「ゆっくり上げて」「トップで一回ためて」 「上からゆっくり下ろす」。レッスンでも、ゴルフ番組でも、 練習場の会話でも、これが正義として流通している。
でも思い出してください。それ、本当にあなたに効果があるから 広まったんですか?それとも、勝った人がやっていたから 広まったんですか?
▼ここが決定的に厄介なところ
松山英樹の「間」は、 あの筋力・あの柔軟性・あの切り返しの加速度を持った人間が 使うから機能します。彼にとってあの間は「止まっている」のでは なく、次に爆発するための助走です。
ところが、その外形だけを一般のアマチュアがコピーする とどうなるか。
・トップで本当に止まる(力の蓄積ではなく、ただの停止) ・切り返しで生まれるはずの反動が消える ・消えた反動を補うために、腕で「よいしょ」と下ろす ・ヘッドスピードが落ちる、当たりも薄くなる ・飛ばないので、さらに丁寧に、 さらにゆっくり振る ← ここでループが完成する
つまり、耳に草を挿しているのと同じ状態です。本人は真剣。 群れの中では自然。でも、飛距離という結果に対しては、何もして いない。
ぶっ飛び力学の立場から言えば、飛距離を決めるのは「丁寧さ」では ありません。切り返しでどれだけ地面を使えているか。 そこで発生した力を、どれだけ逃が さずヘッドまで届けられているか。それだけです。 テンポの遅さそのものが悪なのではなく、遅さがその二つを殺して いるケースが、日本にはあまりに多い。
▼自分に刺さった草を抜くための3つのチェック
トレンドを全部捨てろという話ではありません。 自分に効いているかどうかを確かめてほしい、という話です。今日、 練習場でできます。
・「なぜそうしているか」を言えるか——トップで間を 作っている人は、なぜ作っているのか説明してみてください。 「そう習ったから」「プロがやっているから」しか出てこないなら、 それは草です。 ・いつも通り vs テンポ2割上げ、 10球ずつ——思い切ってテンポだけ速くして打ってみる。飛距離が 落ちるなら、その遅さはあなたにとって機能しています。飛距離が 伸びたなら、遅さはただの飾りだった。 ・数字で確かめる——体感は群れの空気に汚染されます。 ヘッドスピード計でも、スマホのスロー動画でもいい。判定は 必ず外部の数字にやらせてください。
▼まとめ
ザンビアのチンパンジーは、今日も耳に草を挿しています。害は ありません。ただ、意味もありません。
ゴルフが厄介なのは、刺さった草に、私たちが「基本」という名前を つけてしまうところです。基本と呼ばれた瞬間、それは 疑われなくなる。
あなたが今やっているその動き。自分の体が求めたものですか。 それとも、誰かがテレビで勝っていたから、いつのまにか耳に挿して いたものですか。
抜いてみると、意外と飛びますよ。
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