健康な人の5%は、必ず「異常」と判定される

こんにちは、中上級者向け飛距離アップ専門コーチ
ぶっ飛び力学研究所の山崎壱鉱です。
健康診断の結果表を思い出してください。数値の横に「基準範囲」が並んでいて、そこから外れると赤字になります。
健康なのに赤字がつく理由
あの範囲は、こうやって作られています。
健康な人を大勢集めて測り、その真ん中95%を切り取る。
ここで、前回の記事を読んだ方は気づくはずです。95%。どこかで見た数字です。
そして、この作り方には逃れようのない性質があります。
健康な人の5%は、定義上かならず範囲から外れる。
病気だから外れるのではありません。そう決めたから、そうなるだけです。
もうひとつ、知っておいてほしいことがあります。医療には、性質のまったく違う線が2本あります。
- 基準範囲:健康な人の真ん中95%。多数派がどこにいるかの線です
- 臨床判断値:コレステロールや血糖値など。この値を超えると悪いことが起きやすい、という結果から引いた線です
前者は「みんなはどのへんか」、後者は「どこから危ないか」。まったく別の問いに答えています。だから医療は、この2本を混ぜません。
覚えておいてほしいのは、この一点だけです。
多数派から離れていることと、まずいことが起きることは、別の話。
ゴルフには、線が1本しかない
ここからが本題です。
3Dでスイングを計測すると、ツアープロの平均的なレンジが「緑の枠」として表示されます。その中なら緑、外れれば赤。Sportsbox 3Dをはじめ、どの計測システムも似た見せ方をします。
この画面を初めて見た人が、ほぼ全員やることがあります。
赤を消しにいく。
気持ちは分かります。赤は目立つし、直せと言われている気がする。でも、いま確認したばかりのことを思い出してください。
あの緑の枠は、1本目の線です。ツアープロを大勢測って、多数派を囲っただけ。そこから外れると何かまずいことが起きるのかどうかは、枠は何も語っていません。
ゴルフには、2本目の線がないのです。
前回、1950年の米空軍の話を書きました。平均的なパイロットは実在せず、4,000人を10項目測って全項目が平均付近だった人はゼロ人だった。スイングも同じです。全指標が緑に収まる人間など、ほぼ存在しません。
「絶対に触るな。それはお前の武器だ」
実例があります。
シーアイランドのマスターインストラクター、ジャスティン・パーソンズ氏が公開した事例に、アルドリッチ・ポットギーター(Aldrich Potgieter)という選手が出てきます。南アフリカ出身の、ツアーでも別格の飛ばし屋です。
彼が8番アイアンを打つデータを見ると、トップでの胸郭の回転量がツアー平均を大きく超え、真っ赤に振り切れています。
では、これを緑の枠に収めるべきでしょうか。
パーソンズ氏の答えは、「絶対にNO」です。
理由は単純です。その規格外の捻転こそが、彼が異次元の飛距離を生み出している源泉だから。枠に収めたら、彼は彼でなくなります。
前回の記事に出てきた若手、ブレイズ・ブラウンにも同じ話があります。彼はインパクト後の右肘の使い方が独特で、数値上は非標準です。本人が「これ、直したほうがいいですか」と聞いたとき、パーソンズ氏はこう答えたそうです。
「絶対に触るな。それはお前のスーパーパワーだ。」
では、何を直すのか
ここで当然の疑問が出ます。赤を全部残していいのか。
違います。直すべき赤は、確実にあります。
同じパーソンズ氏が、ハリス・イングリッシュという選手の「胸の突っ込み」は徹底的に直しています。ブレイズの「頭の突っ込み」も直しています。ポットギーターの捻転は残し、こちらは消す。何が基準なのでしょうか。
パーソンズ氏の線引きは、こうです。
- 直すべき赤:打点のズレ、球筋の制限、ケガにつながっている動き
- 残すべき赤:その選手の飛距離や方向性の源泉になっている個性
お気づきでしょうか。これが2本目の線です。多数派からの距離ではなく、結果で判定している。
ぶっ飛び力学の言葉に置き換えると、その線はたった一行で引けます。
その動きは、伝達を助けているか。それとも、邪魔しているか。
平均から遠いかどうかは、判定基準ではありません。
ポットギーターの捻転は、地面で作った力をより大きく溜めて上に渡しています。助けているから、残す。ハリスの突っ込みは、インパクト直前で体を起こす代償動作を呼び、打点を壊しています。邪魔しているから、消す。
同じ「赤」でも、やることは正反対になります。
ゴルフに足りないのは、データではありません。2本目の線のほうです。
ここが、いちばん怖いところ
ポットギーターのような選手に、もし平均志向のコーチがついていたら何が起きたか。
彼の最大の武器が、最初に矯正されていた可能性があります。
そして、おそらく同じことが日本の練習場で毎日起きています。飛ぶけれど形が変わっている人が、「それは直したほうがいい」と言われ、きれいになって、飛ばなくなる。
怖いのは、矯正する側にも、される側にも、悪気がないことです。枠に入れたほうが良くなる——そう信じて、二人がかりで武器を削っていく。
そして削られた本人は、自分が何を失ったのかを永久に知りません。比べる相手は「昔の自分」しかいないのに、その昔の自分は、もう撮り直せないからです。
今日からやる3つ
① 自分の「赤」を1つ書き出す
人に指摘された欠点でも、自分で気にしている点でもかまいません。「トップが深すぎる」「手首が折れる」「頭が動く」——何でもいい。1つ選んでください。
② それが助けているか、邪魔しているかを判定する
基準はこれだけです。その動きをやめたとき、飛距離は上がりますか。打点は良くなりますか。分からないなら、まだ直す段階ではありません。分からないものを直すのは、ギャンブルです。
③ 一度に1つしか追わない
パーソンズ氏がTPIのグレッグ・ローズ博士の教えとして語っていることですが、3Dデータは情報量が膨大です。まず1つの指標に絞り、それを自分の感覚と一致させてから次に進む。緑を増やそうとして全部を同時に触ると、何が効いたのか永久に分かりません。
まとめ
健康診断で赤字がついても、病気とは限りません。その線は、多数派がどこにいるかを示しているだけだからです。だから医療は、結果から引いた2本目の線を別に持っています。
スイングの緑の枠には、それがありません。あなたがどうあるべきかは、何ひとつ語っていない。
目指すべきは、全部を緑にすることではありません。武器はそのままに、邪魔をしている動きだけを正確に抜くこと。それだけです。
あなたが今「直そう」としているその動き。
本当に邪魔をしていますか。それとも、あなたの一番の武器ですか。
区別がついていないなら、まだ触らないでください。
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